⑭WINGS Short Film考察 <#4 FIRST LOVE>
※以下、花様年華Note・漫画 花様年華<SAVE ME>ネタバレ注意
前回
今回はユンギのソロ曲「First Love」の考察に入っていきます。
目次
#4 FIRST LOVE -ユンギ
「First Love」というタイトルから真っ先に連想できるのは、ベアトリーチェの存在です。
ベアトリーチェというのは「デミアン」で、シンクレールが初恋した女性に付けた名前です。
彼女に恋をしたことをきっかけに、シンクレールは酒に溺れ荒れ狂っていた生活を改め、そして彼女を崇拝するようになります。
現に「デミアン」の第4章のタイトルも「ベアトリーチェ」で、このMVも4つ目の公開でした。
今回もそれに準えながら考察を考えていきたいと思います。
では、冒頭のナムジュンのナレーションを見ていきましょう。
今回も英文の訳で見ていきます。
神が僕たちを孤独にし、自分自身に向き合わせる方法はいくつかある
それはあの頃 神が僕にした対処の仕方なのだ
「デミアン」の第4章では、デミアンという少年と別れ高校に進学したシンクレールが堕落していく姿、そしてそこからまた「明るい世界」へと戻っていく姿が描かれています。
この章の内容は、個人的にとてもユンギと似ていると感じました。
第4章 ベアトリーチェ
高校に進学したシンクレールは、周囲に陰険で変わり種の男だと思われ、孤独な生活を送ります。
また、シンクレール自身も外部との関わりを拒み、自分の心の中に潜り込むことを望み、そうしているうちに彼は周囲の人間を見下すようになります。
そんなシンクレールに声をかけてきたのが、アルフォンス・ベックという青年でした。
彼はシンクレールに「ぶどう酒を飲みにいくのにに付き合ってくれないか」と声をかけ、シンクレールはそれに応じます。
アルフォンス・ベックは自らを誘惑者だと言いました。
シンクレールはそこで泥酔し、自分の記憶にある「明るい世界」が踏みにじられ、周囲を見下し高慢な精神を持っていた自分がすっかり堕ちてしまったと感じます。
しかしそれが強い魅力を持っていたことも確かでした。
シンクレールは次第に、酒に溺れるようになり、その頃には「暗い世界と悪魔の仲間」になっていました。
新しい仲間の間でも自分が絶えず孤独で、ほかのものと違っていることを知れば知るほど、私はかえって仲間から離れなかった。
大酒を煽ったり、大きなことを言ったりすることが、ほんとうに自分を満足させることがあるのかどうか、自分にももう実際わからなかった。
そのつどあとで酷い不快を感じないほど、酒に慣れたわけでもなかった。
すべて強制させられているようだった。
そうするよりほか、自分をどうしたらよいか、まったくわからなかったので、せずにはいられないことをしたまでだった。
シンクレールは酒に溺れ堕落してしまいますが、それは決してシンクレールが望んでいたことではありませんでした。
しかしその当時の彼には、こうするほかどうしていいか分からなかったのです。
冒頭のナムジュンのナレーションの一文は、この時に出てくる言葉です。
「それはあの頃 神が僕にした対処の仕方」の「あの頃」はこの時期のことを指します。
そしてそれは自分自身に向き合わせるための過程だったのだと。
この頃、シンクレールは休暇中に地元に帰った時にデミアンと会います。
堕落したシンクレールに対し「放蕩者の生活は神秘主義者になる最上の準備の一つなんだ。聖アウグスティヌスのように予言者になるのは、いつもそういう連中だ」と言います。
シンクレールはその後、散歩中に見かけた少女に恋をし、話したこともないその相手を「ベアトリーチェ」と名付けて崇拝します。
今まで悪魔と手を組み「暗い世界」にいたシンクレールは、崩壊した生活の一時期の残骸の中から「明るい世界」を築こうと試みます。
生活を改め、早熟な皮肉屋は聖者になろうとする寺僧へと変わっていったのです。
ユンギとの共通点
先ほど、ユンギと似ていると感じたと書きましたが、具体的にどの部分が似ているのか。
Highlight Reelの考察で書いた通り、ユンギは海に行った後すぐに音楽に没頭します。
ユンギにとって音楽は「明るい世界」に付随していると考えられます。
ユンギがピアノや音楽から離れている時、ユンギは逃げるように酒に溺れ、そして自殺未遂を起こしました。
ソクジンやジョングクの手によって、再び「明るい世界」に触れたユンギは音楽に没頭します。
しかしジョングクが交通事故に遭ったことにより、ユンギはまた音楽から逃げ、連絡を断ち、酒に溺れるようになりました。
これらはシンクレールと通じる部分があります。
冒頭のナムジュンのナレーション部分に準えると「あの頃」というのは、ジョングクが事故に遭い、再び音楽を諦め酒に溺れたユンギを指していると思われます。
そしてそれは神が自分自身に向き合うためにユンギにした対処の仕方だった。
つまりは、ユンギが卵の殻を破るための過程だったということです。
楽器屋
ではMVの内容に入っていきます。
ユンギがいるのは楽器屋の前。
これはユンギとジョングクが再会した場所でもあり、このMVではその時の様子が描かれているようにも思えます。
花様年華Noteの中に、この日のユンギの日記があるので、それを見ながら見ていきます。
ユンギは石でガラスを破り、楽器屋の中へと足を踏み入れます。
そしてその中にあるピアノで、ジョングクのソロ曲でもある「Begin」を弾き始めますが、途中で止めてしまいます。
しかし、実際の過去ではこれらの行為をしていたのはユンギではありません。
ユンギはピアノの音が聞こえ、楽器屋へと向かいました。
ガラス窓が壊れた楽器屋のピアノの前に誰かが座っていた
数年が過ぎていたが、すぐに誰だか分かった
ピアノの前に座り、曲を弾いていたのはジョングクでした。
つまりここまで、ユンギがガラスを割りピアノを弾くまでのシーンはジョングクがしていた事であり、ユンギは当時のジョングクを演じていたということになります。
その時、口笛が聞こえ、ユンギはその音を探すように楽器屋の外へと飛び出します。
ここから先、ユンギはジョングクではありません。
ジョングクはその後、楽器屋にやってきたユンギと再会しているからです。
口笛
外に出て、口笛の音を探しているユンギ。
口笛はBEGINにも出てきていました。
その時に書いた通り「デミアン」でシンクレールは悪童クローマーに口笛で呼び出され、口笛は彼にとって悪魔の呼び声で恐怖の対象でした。
その悪魔の声に呼び出されるようにして外に出たユンギは、その音を探しています。
これはユンギにおける「誘惑」の演出でしょうか。
ピアノの音
そして、向こうからやってきた車にユンギは轢かれそうになります。
酔いが覚めたのは突然、クラクションが鳴ったからだ
車はギリギリのところで俺をかすめて通り過ぎた
眩しいヘッドライトと車が舞い上げた風、酔いの中で俺は気を引き締めることができなかった
暴言を吐く運転手の声が聞こえた
ひとしきり罵声でも浴びせようとしたが、ピアノの音がもう聞こえてこないことに気づいた
日記の内容から見るに、このシーンは実際のユンギの過去であることが分かります。
やはり口笛は誘惑(酒に溺れていた)の演出だったようです。
この時ユンギは、下手なピアノが自分の曲を弾いていることに気付いていましたが「だからなんだ」と、過ぎ去ろうとしていました。
めらめらと燃え上がる火花の音、風の音、通り過ぎる車の音だけで、ピアノの音はなかった
なぜやめたのだろうか
誰がピアノを弾いていたのだろうか
ユンギの頭上にもうひとつの道路が写っています。
これはもう一つの世界の存在を表していると思いますが、この場合は現実(花様年華の世界)でしょうか。
この世界が空想であることが分かります。
その時、拳でピアノの鍵盤を叩きつけるようにバンという音が聞こえた
反射的に振り向いた
その時、血が激しく巡り出した
子供の頃の悪夢
あそこで聞いた音のようだった
この「拳でピアノの鍵盤を叩きつける音」というのは、FIRST LOVEのMV中では聞こえてきません。
しかし、他のMVで聞くことが出来ます。
ひとつはBEGIN。
そしてもう一つはLIE。
燃えるピアノが映し出されるシーンです。
この音を出したのは、紛れもなくジョングクでした。
ユンギはその音で「子供の頃の悪夢」を思い出します。
この悪夢について詳細は書かれていませんが、恐らく母が火事で亡くなったことに関してではないかと思います。
次の瞬間、楽器屋に向かって走った
俺の意思ではなかった 俺の心が動いたのだ
何度も繰り返してきたことのような気がした
それが何なのかは分からないが、切実な何かを忘れていたように思えた
MVでは、クラクションの音とガラスが割れる音が聞こえます。
そして直後に映し出される文字。
俺は変わってたかな もし別の道を選んでいたら 足を止めて振り返ってたら
これは「길(道)」という曲の歌詞の一文です。
同じような文章が、ユンギの花様年華Noteにありました。
楽器屋で偶然会った時、見なかったふりをして引き返していたら、
炎の中で俺があのまま死んでいたら、
そうだとしたら、この全てのことは起こり得なかったのだろうか
これはジョングクが事故に遭い、入院したと知ったユンギがジョングクの病室に行った時の日記です。
ユンギとジョングクが再会したのは22年4月7日で、ソクジンがタイムリープをする前でした。
ソクジンによって彼らがまた再会した時、ジョングクをナムジュンのコンテナに連れて行ったのは、他でもないユンギでした。
孤独
ユンギが孤独になりたがるのには、理由があります。
彼が楽器屋でジョングクを見かけた時、ユンギはすぐにそれがジョングクだと分かりましたが、一度顔を背けました。
他人の人生に関わりたくなかった
その人の孤独を慰めたくなかった
誰かにとって意味のある人になりたくなかった
その人を守れると自信を持って言えなかった
最後までそばにいる自信がなかった
傷つけたくなかった
傷つきたくなかった
最後の瞬間が来たら、俺たちは自分自身を救うことさえ難しい
こういった台詞は、その後も何度か描かれています。
ユンギは自分に大切なものを作ることや、自分が誰かにとってそうなることを嫌っていました。
それは本当に嫌っているわけではなく、怖いのだと思います。
ユンギがジョングクの事故の知らせを受ける前夜、夢を見ていました。
家が炎に包まれ「中に誰かいるの?」と聞かれ、母がいるにも関わらず「いいえ。誰もいません」と答えた自分。
そして場面が変わり、明かりが消えた母の部屋で「あなたを身ごもらなかったら、あなたが生まれてこなかったら…」と母に言われた自分。
この言葉は、ユンギを苦しめる一因となっていました。
自分の存在が、母を苦しめていた。
自分と関わった人間が不幸になると思ったユンギは、他人と深い関係になることを避けるようになりました。
これは完全に私の個人的な意見ですが、ユンギの母は実家の火事で死んだとしか書かれていませんが、ユンギ自信が焼身自殺に拘っていることから、もしかすると自殺だったのではないかと思っています。
母はピアノを弾いていたというのもありますので、ユンギと同じ音楽をしていたのかもしれません。
そしてユンギを身篭ったことによって、その夢を立たねばならなかった…とか(完全に想像です)
ユンギは孤独を望んでいましたが、シンクレールが酒に慣れることがなかったように、ユンギにとってもそれは良いことではなかった。
だから7人でいることは、ユンギにとっても意味のあることだったと思います。
ジョングクが孤独であることを知り、声を掛けてしまったユンギは、ジョングクにとって自分がどんな存在か分かっていました。
ユンギはジョングクにとって、意味のある人だったことでしょう。
ジョングクの見舞いに行かなかったユンギに対し、ホソクは「ジョングクに何故会いに行かなかったのか。彼にとって兄さんがどんな存在か知らないのか」と言ったことがあります。
知らないわけではなかった
ある意味、だから病室に入れなかったのかもしれない
俺はひねくれ者で、とげのある人間だった
俺のそばにくると、誰でも傷ついた
ジョングクが交通事故に遭って死にかけたのは、自分のせいだったかもしれない。
自分がジョングクと再会などしていなければ。
俺があのまま死んでいれば。
ユンギは昔母に言われたように、ジョングクに「兄さんのせいで」と言われ傷つくのが怖かったのだと思います。
そしてそう言われた時に、言い返す自信もない。
大事な人が自分のせいで傷つくのを見たくない、だから親しくなりたくない。
それがユンギが孤独を望む理由だと考えられます。
燃えるピアノ
ユンギは車のブレーキ音、そしてガラスが割れる音を聞いて、楽器屋へと駆け出します。
その直後に、LIEにも出てくるバスタブが写りますね。
これはLIEでは逆再生になっていました。
ジョングクの事故の知らせをしてくれたのは、ジミンでした。
戻った先で、ユンギは車が楽器屋に突っ込んでいるのを見ます。
そこはかつてジョングクが居た場所。
車が突っ込む姿は、ジョングクが交通事故に遭ったシーンをも彷彿とさせます。
個人的な意見ですが、この場面はさっきのユンギの言葉に対するアンサーだったように思えます。
俺は変わってたかな もし別の道を選んでいたら 足を止めて振り返ってたら
もしユンギが楽器屋でジョングクに声をかけなかったら、どうなっていたのか。
本当にこの通りになっていたかは分かりませんが、もしかしたらジョングクは死んでしまっていたのかもしれません。
そう思うと、INUのジョングクの事故シーンとの繋がりも考えられます。
この時のジョングクの服装は、漫画と同じですので22年4月頃だと考えられ、楽器屋で再会したのと同時期です。
また車が過ぎ去った後の道路には血の跡が残されており、これは右車線にあるためINUの事故シーンとリンクしているように思えます。
黒い車も少し似ていますね。
(明るさを修正してみました)
ユンギと再会しなかったジョングクは、その後に交通事故に遭い命を落としていたのかもしれません。
神様目線で見ると、ジョングクが海の帰りに事故に遭ったのはユンギのせいではありません。
ユンギは知りませんが、ビルの屋上からジョングクが転落しなかったのは、ユンギから電話があったからです。
ユンギはジョングクを救い、そしてまたジョングクもユンギから救われていたのです。
車のブレーキ音、ガラスの割れる音はBEGINの冒頭、ジョングクが夢から覚めるシーンと繋がっています。
ピアノが燃えるというのは、ユンギにとっては母の火事の記憶がありますが、ジョングクにとっては記憶にない事です。
ジョングクが見ていたのは、この夢だったのかも知れません。
また口笛の音が聞こえ、ユンギは振り向きます。
この場所にいるユンギ自身もまた、口笛によって外に出なければ死んでいました。
ユンギは「悪の呼び声」にとって命を救われたとも取れます。
前回のSTIGMAで書いた気もしますが「デミアン」の中でこんな一文があるんです。
彼は彼の道を最後まで歩み、最後の瞬間になって、卑怯にも、それまで彼を助けて来た悪魔と手を切ったりなんかしない。
人を誘惑し「暗い世界」に堕とすとされる悪魔は、必ずしも悪いものなのか。
冒頭のナレーションにもあったように、酒に溺れ堕落した生活をしていた日々は、ユンギが自身の卵の殻を破るために必要なものでした。
その日々がなければ、ただ「明るい世界」に身を置いていただけでは、彼は変わる事が出来なかったでしょう。
悪魔は常に人を陥れますが、それと同時に自分の成長を助ける存在でもあります。
ユンギにとってのベアトリーチェ
「デミアン」でシンクレールが再び「明るい世界」へと戻ろうとしたのは、ベアトリーチェという存在が現れたからでした。
では、ユンギにとってのベアトリーチェとはなんだったのか。
Highlight Reelに出てくる共同製作者の彼女…とも一瞬考えましたが、ユンギは彼女を尊敬していますが恋をしていたわけではありません。
歌詞になっている通り、ユンギにとって初恋はピアノそのものだった事でしょう。
ユンギは海に行った日以降、またピアノと向き合う事によって「明るい世界」に戻り、音楽に没頭することになりました。
つまり、ユンギにとってのベアトリーチェは「ピアノ」だということです。
BEGINとの繋がり
前述で少し話しましたが、表題でもある第4章の内容はBEGINでも描かれており、FIRST LOVEとの繋がりも見えます。
ベアトリーチェの崇拝を始めたシンクレールは、ベアトリーチェを描こうと絵を始めます。
ここがBEGINで描かれている一連にシーンへと繋がっているのです。
ユンギの卵
ユンギは卵の殻を破ったのか。
花様年華Noteで、ジョングクの事故の後自暴自棄になったユンギのその後が描かれています。
ユンギは酒に酔って露店の前で倒れていたところで、久しぶりにホソクと再会します。
その時ホソクは足に怪我をしており、アルバイトもダンスも出来ない状態でした。
ホソクはユンギと中学時代からの知り合いで、ユンギがどういう状況で母を亡くしたのか知っているため、自分はいつも彼にとって一緒にいて楽な存在になろうと努力していました。
しかしその時のホソクは、苛立っていました。
自分の不注意でアルバイトもダンスも出来ない自分の状況にも、そしてジョングクの見舞いに行かず、飲んだくれているユンギにも。
兄さん、お母さんが亡くなってつらかったでしょう
僕も分かってます
でも、いつまでこうしているつもりですか?
それで生きていけますか?
音楽があったから幸せだったことは一度もありませんでしたか?
ジョングクにはなぜ会いに行かなかったんですか
待ってること、知らないんですか?
僕たちが傷つかないとでも思っているんですか?
つらくないとでも思っているんですか?
逃げるのもいい加減にしてください
行くなら姿を消して、戻らなければいいんです
「音楽があったから幸せだったことは一度もありませんでしたか?」という言葉、個人的にすごくグッと来ました。
ユンギはきっと、音楽なしでは生きていけない人間です。
「それで生きていけますか?」というのは「音楽なしであなたは生きてけるんですか?」という意味だと思います。
ユンギが何故音楽を度々諦めてしまうのか。
ピアノだの音楽だのくだらないことを言うんじゃない
お前の母親みたいにイカれて死にたくなければ
これは漫画に出てくる言葉ですが、恐らく父に言われたのではないかと思います。
ユンギは父との折り合いが悪かったようなので。
音楽に惹かれ、没頭し、音楽がなくては生きていけないと知っていながら、自分も母親のようになってしまうのではないかと、そして誰かを傷つけてしまうのではないかと思っていたのかも知れません。
ホソクはそういった考えで音楽から度々手を離してしまうユンギに対し、こう言ったと考えられます。
そして、ユンギはホソクに言われた「行くなら姿を消して、戻らなければいい」という言葉を思い出し、林の中へと足を進めます。
数えきれないほど死を考えた
どうしようもなく惹かれながらも、一方では真正面から見つめられないほど怖い対象から、その極端を行き交う苦しみから逃げたかった
今がその瞬間ではないかと思った
これでよかったのだとも思った
つらい時ほど他人を傷つけてきた
他人の傷を知っていながら、顔を背けた
責任を取りたくなかった
関わらないようにしていた
俺という者は生まれつき、その程度の人間だった
だから今、この瞬間は俺たち皆にとって祝福かもしれなかった
ユンギは林の中、雨に打たれながら眠気に誘われ目を閉じます。
そんな彼が再び目を開けたのは、ピアノの音が聞こえたからでした。
真夜中の林の中でピアノの音が聞こえるはずがないと思いながらも演奏は続きました。
そら笑いがこぼれた
あのメロディーのようだった
何か大事なものが欠けているが、それが何なのか分からず、何日も眠れなくさせたあの旋律
聞こえた旋律は、作業をしていたユンギが「何か足りない」と探していたメロディーで、それは音楽を諦めた今になって思い出します。
ユンギは体を起こしかけた時「今になって音楽を完成させて、一体何の意味があるのだ」という考えが頭をよぎりますが、それでも彼は体を起こし、震える体を支えピアノの音に向かって歩き出しました。
音を探して歩いているシーンは、口笛の音を探して楽器屋を飛び出したユンギの姿と重なりますね。
突然、目の前に日差しがまぶしかった午後の一時が広がっていた
俺が作業室のピアノの前に座り、メロディーを弾いていた
頭の中のあのメロディーだった
『兄さん。それ、本当にいいですね』
ジョングクが近づきながら言い、俺は軽く笑って答えた
『お前は何でもいいって言うじゃないか』
いや、それは1つのメロディーではなかった
遠い過去にいたずらのように、遊びのようにピアノの鍵盤を叩いていた頃だった。
倉庫の教室で俺のピアノに合わせて踊っていた友達との記憶であり、
徹夜で作業をして迎えた朝の空気でもあった
幸せだった瞬間ごとにピアノがあった
いつも粉々に砕け散ったが、それらを否定することは出来なかった
ユンギはいつの間にか林の入り口へと戻ってきていました。
音楽を完成させる意味はまだ分かりませんでしたが、それでも完成させることにしたのです。
ホソクの言った言葉を回収するかのようなこのシーンが本当に好きです。
ユンギはこうして自らの力で「明るい世界」へと戻ろうと努力します。
ユンギが家に戻ってから二日後の日記があります。
線路沿いを歩き、バス停に着くと、少し離れた先に工事が中断され、数ヶ月、放置されたままの建物が見えた
その建物の間を少し上がっていくと、楽器屋があった
パチパチと音を立てながら燃え上がっていた火も、ゆっくりとした下手なピアノの音も今日はなかった
楽器屋の前で立ち止まった
体を曲げて石を拾い、投げるだけの力など残っていなかった
そんなことが本当にあったのかと思うほど、あの時の記憶はぼんやりとしていた
ユンギは音楽と向き合うことにより、卵の殻を破りました。
ピアノは自分を不幸にしたばかりではなく、幸せをもたらしてくれていたことを知った時、ユンギは逃げることをやめました。
前述でユンギの日記に出てきていた「それが何なのかは分からないが、切実な何かを忘れていたように思えた」という言葉の”何か”というのは、ピアノを弾いて幸せだった記憶だったのかも知れませんね。
ユンギの卵はピアノの鍵盤?のようにも見えます。
これはジミンの卵と混ざり合い
タイヤの柄のようになりました。
ジミンとユンギはWingsにおけるペアです。
二人の共通点は少ないですが、殻を破れない原因が自分自身であったことは共通しています。
まとめ
- FIRST LOVEは堕落したユンギが「明るい世界」へと戻る姿が描かれている
- 「暗い世界」はユンギが卵の殻を破るために必要な誘惑だった
- ユンギは自分自身と向き合うことで卵の殻を破った
いかがだったでしょうか。
何か書き忘れた気がしてなりません。
考察を重ねるうちに、他の考察も変わってきてしまいますね。
とりあえずは書き直さないですが、そのうち大幅に変わってしまったら過去の文章も書き直します。。。
次回はナムジュンの「Reflection」です。