⑪WINGS Short Film考察 <#1 BEGIN>
※以下、花様年華Note・漫画 花様年華<SAVE ME>ネタバレ注意
前回の記事
今回からWingsの考察に入っていきたいと思います。
まずは一番初めに公開されたWings Short Filmから考察してみたいと思います。
今回は1番目の「Begin」からです。
そして今回もたくさんの方の素敵な考察や日本語訳を拝見させていただきました。
他の方の考察を参考にしている点も多々ありますので、それを踏まえた個人の解釈として見て頂ければ嬉しいです。
また、考察が変わると記事を書き直したりしていますので前回と内容が違っている可能性があります。
目次記事やタイトルにてお知らせはしていますが、ご了承ください。
目次記事
[注意]
・3月に出版された「花様年華 THE NOTES 1」
・LINE漫画で公開されている「花様年華Pt.0<SAVE ME>」
・公開されている「花様年華 THE NOTE」
以上を参考にしており、盛大にネタバレしていますので未読の方はご注意ください。
Wingsのコンセプト
花様年華が少年たちの青春や苦悩を描いたのに対し、Wingsは誘惑に出会った少年たちの葛藤と成長のための話というのがテーマです。
具体的なコンセプトとして、ヘルマン・ヘッセの「デミアン」という小説を元にしていると公式から公表されています。
今回の考察もその「デミアン」を元にしていきたいと思います。
前作である花様年華と繋がりがあることは確かだと思いますが、”物語として”どれほど繋がっているのかというのは現時点では何とも言えない所です。
花様年華の小説はまだNOTE 1で続編があると思いますし、そこでWingsの話が描かれているかというのは分かりません。
もしかしたらWingsに近い話になっているかも知れませんが、全く違うあくまで花様年華としてタイムリープ の続編の可能性も高いです。
前作までの花様年華と比べ、Wingsは夢想的で現実的ではないシーンが多いです。
花様年華の世界の続きとは考えにくいですが、夢の世界と言い切ってしまうのも個人的には違うかと思います。
今回は個人的なWingsにおける解釈を基に考察を書いていこうと思っていますが、なんせ言葉にするのが難しく、しっかりと伝えられる自信がありません・・・。
分かりにくければ申し訳ないですが、お付き合い頂ければと思います。
デミアンについて
ではまず「デミアン」という小説について知っておかなければなりません。
この小説は説明が難しいのですが、ざっくりと説明するとシンクレールという主人公がデミアンと出会ったことをきっかけに、自己探求を目指していく話です。
そしてまた、Wingsのテーマのように「誘惑に出会った少年の葛藤と成長の物語」でもあります。
そう言われても一体どんな話か分かりませんよね。
私もあらすじを見るだけでは全く概要が掴めず、哲学的すぎてついていける気がしないと途方に暮れていたのですが、そこでオススメしたいのがこの方の記事です。
非常に分かりやすくデミアンの紹介をしてくださっています。
私はこれを読んで興味が湧き、デミアンに手をつけ読了しました。
無宗教が多い日本人にとってキリスト教など宗教についての話や「カインとアベル」などの話は馴染みがなく難しい所もありましたが、今の現代人にも通じるメッセージがあり、個人的には面白かったです。
そしてこれを読まずしてWingsの考察は出来ないなと感じました。
軽くでも読んでみると理解が広がるかと思います。
簡単に私の方でもあらすじを書いてみますが、足りない部分も多いかと思うのでより詳しい話を知りたい方は是非見てみてください。
簡単なあらすじ
主人公のシンクレールはいわゆる「明るい世界」に身を置いていました。
この小説で言う「明るい世界」とはキリストの教えに従い信心深く暮らす人たちの世界を指します。
シンクレールの家庭は裕福で、父母は非常に信心深い信徒でした。
そこには未来に通ずる真っ直ぐな線と道がありました。
義務と罪、やましい良心と懺悔、ゆるしと善意、愛と尊敬、聖書の言葉と知恵とがありました。
明るい清らかな、美しい、整った生活をするためには、その世界を離れてはいけません。
その一方でシンクレールは自分のすぐそばに第二の世界があることも知っていました。
そこには並外れた、そそのかすような、恐ろしい謎めいたことが、色とりどりにありました。
つまり「暗い世界」です。
「明るい世界」と「暗い世界」この二つの世界を行き来しながら、シンクレールは己とは何かを知っていくことになります。
シンクレールがまだ10歳の頃、友達と遊んでいる時にフレンツ・クローマーという年上の少年と出会います。
彼のことはよく知っており、彼の父親は酒飲みで、家族全体が悪い評判を受けていました。
シンクレールにとっては「暗い世界」の住人です。
シンクレールは彼を恐れて言いなりになっていましたが、心の中では自分が彼の仲間になっていることを胸苦しく感じていました。
またその反面、彼が自分を仲間に入れ、他の仲間と同じ様に扱ってくれたことを嬉しく思う気持ちもありました。
そんな時、仲間内で武勇伝やいたずら話を自慢するやりとりが始まりました。
一緒にいた少年たちはクローマーの側についていたのは明らかで、シンクレールはその中では異分子でした。
つまりシンクレールだけが「明るい世界」の住人で、自分の身なりや良いしつけが彼らの反感を買っていることに、シンクレールは気づいていました。
シンクレールは黙っていましたが、かえって黙っていることがクローマーの怒りを買うのではないかと思い、不安になったシンクレールは「果樹園で仲間とリンゴを盗んだ」という嘘の武勇伝を語ります。
その帰り道、クローマーは「果樹園の持ち主がリンゴを盗んだ犯人を捕まえたら二マークくれるんだ」と言い、シンクレールを脅します。
実際にシンクレールがやったことではありませんでしたが、そうなってしまえば家族の「明るい世界」が崩壊することは目に見えていました。
何とか言わないでくれとクローマーに頼み、その代わりとしてシンクレールは彼から金銭をなびられるようになります。
これがシンクレールが初めて触れた「暗い世界」です。
物語はここから始まります。
そしてそんな時に出会ったのが「デミアン」という少年でした。
デミアンによってシンクレールの中の常識や考えが大きく変わっていきます。
二つの構成
大したことではありませんが、小説「デミアン」は全8章で構成されており、同様にWings Short Filmも8つのムービーが公開されています。
Wings Short Film
- Intro:Boy Meets Evil
- Begin
- Lie
- Stigma
- First Love
- Reflection
- MAMA
- Awake
全てが紐づき関連している訳ではありませんが、大体の流れは似ているかと思います。
Boy Meets Evilは1番最後の公開ではありますが、悪と出会うというのが「デミアン」の始まりでもあり、今回のコンセプトでも大事な部分だと思います。
具体的な関連については今後の考察で見ていきたいと思います。
#1 BEGIN -ジョングク
では早速一番先に公開されたジョングクの「BEGIN」から見ていきます。
Wings Short Filmはナムジュンのナレーションから始まります。
読まれているのは「デミアン」に出てくる文章です。
そしてここに出てくる「二つの世界」はWingsシリーズにおいて最も大事なことだと考えられます。
二つの世界
二つの異なる正反対の世界の昼と夜 この時間に入り混じる
−デミアン第1章 二つの世界
「デミアン」の第1章タイトルでもある、この「二つの世界」というのはWingsにおいて非常に多く出てきており、とても重要です。
では一体「正反対の世界の昼と夜」というのは何なのでしょうか。
「デミアン」においての二つの世界というのは非常にわかりやすいです。
前述のあらすじにも書いていますが、キリスト教の教えに沿った世界こそが「明るい世界(昼)」であり、背いた世界が「暗い世界(夜)」です。
この二つの世界は隣り合って存在しています。
明るい世界である主人公シンクレールの家の中にも、暗い世界の匂いは常に漂っていました。
この二つの世界がどんなに近くに隣り合っており、どんなに近くにいっしょに寄りあっているかということは、なにより奇妙なことだった。
たとえば、うちの女中のリーナは 、夕方のお祈りのおり、居間のドアのそばに腰掛、澄んだ声で歌を一緒に歌い、しわをのばした前掛けの上に洗った両手を乗せている時は、まったく父母の世界に、私の世界に、明るい世界に属していた。
しかし、すぐそのあと、台所で、あるいはまきを入れる物置で、頭のない小男の話を私に聞かせる時、あるいは肉屋の小さい店で近所の女中と言い争っている時は、彼女は別な女になり、別の世界に属し、秘密に取り巻かれていた。
この話に出てくる様に、二つの世界は常に隣り合って存在し、大抵の人は二つの世界を行き来しながら生活をしています。
ではこれをWingsで当てはめてみるとどうでしょうか。
花様年華から推測するに、7人がシンクレールと同じ様に「明るい世界」に属しているというのはどうにも考えにくいですよね。
みんな高校生の時から悪さをしていましたし、どちらかというと「暗い世界」に近い気がします。
「デミアン」をそのまま当てはめて考えるのは難しいようです。
それではWingsにおける二つの世界とは何なのでしょうか。
これは私の個人的見解になりますが、花様年華の世界が「明るい世界」だと考えた時に正反対の「暗い世界」に当たるのがWingsだと考えています。
Euphoriaでソクジンは一度タイムリープを成功させました。
全ては終わったかと思えましたが、結果としてタイムリープはまた起こってしまった。
結局 向き合わなければならないことは
昨日とは違う嵐
ソクジンの行動により彼らの未来は変わりましたが、悲しくもソクジンに出来ることは彼らを危機から救うことだけでした。
Highlight Reelで浮き彫りになったのは、彼らの本当の影だったように思えます。
例えば、ナムジュンが客と揉め拘置所に入ったのは、彼が貧困な家庭だったからでもありますが、ソクジンがそれを防いだからと言って、ナムジュンが幸せになったわけではありませんでした。
ナムジュンは周囲の高い評価に、自分は相応しい存在ではないという葛藤を抱いていました。
兄さんは何を知っているんですか? 何も知らないくせに
兄さんは自分がすごい人だと思っているんでしょう
海に行った日、ソクジンとテヒョンの仲裁をしようとしたナムジュンが、テヒョンから言われたこの言葉は、ナムジュンが最も気にしていることでした。
ナムジュンは肯定するかのように手を離し、テヒョンはナムジュンが手を離したことに深くショックを受けます。
こうして二人の間には溝が出来てしまいました。
テヒョンにも原因はありますが、もしナムジュンが手を離さなければここまで大きな溝は生まれていなかったかもしれません。
しかしそれは、ソクジンにはどうにも出来ないことです。
ナムジュンの心の中までは、ソクジンに変えることは出来ません。
もっと分かりやすいのはユンギでしょうか。
ユンギが放火自殺を起こす原因は、一貫して彼自身にありました。
ソクジンが出来たことはジョングクをユンギの元へ向かわせることだけ。
ユンギは一度立ち直ったかのように思えましたが、ジョングクの事故によって再び自暴自棄に陥ってしまいます。
ユンギが自殺をしてしまう未来は、またいつ起こるか分からない未来です。
ユンギ自身が乗り越えない限り、それは永遠にずっと。
Wings TourのエンディングVCRに気になる文がありました。
少年の心臓は七つ。
七度の鼓動が一つの前進。
一度視点を裏返せば、一つは七つ。
走ろうとすれば必ず転び。
振り返れば絶壁。
揺れる誘惑の世界の中、
少年は閉じられた瞳で何を探すのか。
カーテンを開けて鏡を割れば
破片の中に道が開かれる。
外は内であり、内は外。
ねじれて絡み合う世界。
万物の交差点。
ぴったりと背中を合わせたふたつの世界が
絶えずひとつになる。
その道の上で少年は今七つ。
七つで一つ。
一つの心臓を分け合う七人の少年。
七つの心臓をもつ一人の少年。
一と七は、水に映った互いの影。
どれほどの道を歩けば、少年は男になれるのだろう。
道は 世界の別の名。
夜と昼、交差点とトンネル。
道は絶えず割れゆき、
選択の瞬間はいつも孤独。
冒頭のナレーションで出てくる「昼と夜」というワードも入っていますね。
花様年華シリーズにおいて頻繁に出てきた「一緒なら笑うことができた」という言葉は、彼らが一つであることを表しているように思えます。
彼らは一つでなければいけなかった。
しかし背中合わせの世界では、彼らは一つの心臓を分け合う七人の少年だった。
「選択の瞬間はいつも孤独」
自分を変えられるのは、結局自分だけだということ。
昼=光=七つの心臓を持った一人の少年=花様年華
夜=影=一つの心臓を分け合う七人の少年=Wings
この二つの世界は「デミアン」と同じ様に混じり合いながら存在しています。
WingsのMVで反射している演出が多く使われていることも、二つの世界が隣り合っていることを表しているのではないかと思います。
Wingsでフォーカスされているのは花様年華で歩んだ世界の反対側、一人で歩まなくてはいけない彼らの影の部分だと思います。
そのためWingsのMVで描かれているのは、彼らが見ている夢というわけでもなく、彼らの内側(心の中)で起こっている葛藤といった風に捉えるのが一番近いのではないかと思います。
「デミアン」で言えば、それこそシンクレールが自己探求をしている最中の話です。
現実的ではないのは、精神的な部分を描いているからだとも思えます。
良い言葉が見つからなかったので、分かりにくかったらすいません。
以降の考察はこの考えを前提として見ていきます。
口笛
タイトルが映し出されるシーンから聞こえる、口笛の音。
「デミアン」においての口笛は、決して良い意味ではありません。
クローマーという悪い少年に弱みを握られた主人公シンクレールは、いつも彼の”口笛”によって呼び出されていました。
シンクレールはクローマーのことを「悪魔」という風に表現しています。
私の罪は、悪魔に手を差し伸べたことであった。
呼び出された先では金をせびられ、シンクレールは貯金箱や台所などから小銭を盗みクローマーに渡しましたが二マークには程遠く、手ぶらでいくと仕事を押し付けられました。
そんなことが数週間続き、シンクレールの心を蝕んでいきます。
シンクレールにとって”口笛”は悪魔からの呼び声だったと考えられます。
このシーンにおいて、口笛は「悪魔からの誘惑」を表しているように思えます。
ジョングクの夢
寝ているジョングクが夢を見ているかのようなシーンから始まります。
魘されるジョングクの夢には、燃えるピアノが出てきます。
これはユンギのShort Film #4にも出てきます。
ピアノと関連深いのはユンギしかいないので、このシーンもユンギの放火自殺を連想されますね。
ジョングクの中でも、恐ろしい記憶になったのではないかと思います。
そして車のブレーキ音の後、何かが割れ、ハイタカが現れ、目を覚まします。
車のブレーキ音は、ジョングクの交通事故と関連しているように思えます。
花様年華でジョングクは交通事故のあと、不思議な夢を何度も見ていますが、今回も夢だったようです。
そしてこの「何かが割れる」シーンですが、この演出は花様年華から多く用いられていますよね。
ソクジンのタイムリープが起こる時も、この音が聞こえます。
MVではRUNでユンギが鏡を割ったシーンがありました。
日本語版では、鏡が割れた部屋に閉じ込められたユンギのシーンもあります。
そして、先ほどのWings TourのVCRにもありました。
カーテンを開けて鏡を割れば
破片の中に道が開かれる。
この「何かが割れる音」はガラスではなく鏡が割れる音だったとも考えられますね。
Wingsにおいてこの音はVCRの文章にある通り道が開かれる音のようです。
しかし一方花様年華においてはソクジンのタイムリープが起きる音で、言わば真逆の”道が閉ざされた音”のように思えます。
Wingsと花様年華が反転した二つの世界である…という風にも捉えられますね。
この割れるシーンについては他のMVでも見られるので、今後何かでまとめて見たいと思います。
そして目覚める直前に映ったハイタカですが、これは「デミアン」において重要な意味を持ちます。
ハイタカについてはこの後書きますが、この冒頭の夢を見ているシーンというのも個人的には意味がある様に感じます。
「デミアン」において主人公シンクレールは、夢を通して自己探求をしていくような描写があります。
それはシンクレールだけでなく、シンクレールの師となるデミアンという少年や、ピストーリウスというオルガン奏者に至ってもそうです。
夢の中というのは、生きている中で最も自己の深淵に近いのかも知れません。
それは同時に、暗示のようなものでもありました。
ジョングクのこのシーンも似たような演出だと考えられます。
男性の絵
目覚める直前にジョングクの瞳が映るのですが、不自然に光が遮られている様に思えます。
他の方の考察で、ここにテヒョンが映っているというのを見て「マジかよ」と思い明るさをあげたりしてみたのですが、私にはよく分からなかったです(悲しい)
確かにRUNの序盤、黒い背景で水に落ちていくテヒョンに見えなくもないですが、確信を得るまでには至らず。
私としては、この後またジョングクの瞳が映るシーンがあるので、そこの対比であると考えていました。
この時点のジョングクの瞳にはまだ何も映っていません。
夜明け
太陽が昇る前の夜明けが 一番暗いから
暗転した画面に映るこの言葉は「Tomorrow」の歌詞です。
二つの世界として考えた場合、この世界は夜だと考えられます。
互いに反転する様に隣り合った世界。
夜明けが指すのは、ジョングクが苦しみを乗り越え、明るい世界へ戻ることを指しているのかも知れません。
ジョングクの服装
ジョングクの服装ですが、どことなくINUやEuphoriaのソクジンに似ている気がします。
関連があるかどうかは分からないのですが、ベッドで寝ているシーンなども少し似ていますよね。
ジョングクの服の左胸には鳥の刺繍があります。
首が長くハイタカのようには見えず、私は鶴?と思ったのですが「デミアン」やキリスト教、ギリシャ神話では鶴にまつわる話は見つかりませんでした。
日本においては幸福の鳥ではありますが、国が違う為、何とも言えない所です。
ただ、鳥であることというのは非常に重要だと思います。(これも後ほど)
男性の絵
ジョングクはベッドから起き上がると、床に絵が落ちていることに気がつきます。
その絵に書かれているのは左目が赤く色づいた男性の絵。
この男性、どことなくユンギに似ている気がします。
絵を見ていると場所が変わり、キャンパスのある部屋に移ります。
外では雨が降っており、周囲の壁にも同じ様に絵が貼ってあります。
このシーンに似たものが「デミアン」にあります。
目が覚めると、真夜中で、へやの中に雨の降り込む音が聞こえた。
私は起き上がって窓をしめるとき、床に横たわっているなにか白いものを踏んだ。
朝になって、それは私の描いた絵だったことがわかった。
絵はぬれて床に横たわって、波の形にふくらんでいた。
私はかわかすために、それを伸ばして吸い取り紙にはさんで重い本の中に入れた。
翌日見たら、かわいてはいたが、変わってしまっていた。
赤い口は色あせて、いくらか細くなっていた。
こんどはすっかりデミアンの口だった。
詳細は省きますが、シンクレールは高校に通い出してから酒に溺れ、暗い世界に身を置く様になっていました。
堕落した生活は続き、ついに退学にまでなりかけた時、彼はベアトリーチェと名付けた女性に恋をし、崇拝し始めます。
この崇拝によりシンクレールの生活は改められ、彼は信仰に没頭します。
シンクレールはベアトリーチェを思い浮かべながら、彼女の絵を描きました。
後にその絵がデミアンに、そして自分自身にも似ていることに気づきます。
デミアン、というのはシンクレールを悪魔のようなクローマーから助けた友人です。
デミアンは少年とは思えないような落ち着きを持ち、そしてシンクレールに「カインとアベル」について独自の思想を語った少年で、シンクレールは彼の影響を多大に受けていました。
シンクレールの自己探求は、デミアンがきっかけでもあります。
筆を持って絵を見つめていたジョングクは何かに気がつきます。
その目に燃えるピアノが映り、ジョングクは手に持っていた絵を落とします。
燃えるピアノはユンギを連想させることから、ジョングクはその絵がユンギに似ていると気づいたのかもしれません。
ジョングクにとってユンギの存在は大きかったと思われます。
ユンギはジョングクにとってのデミアン(尊敬・理想の存在)だったのかも知れません。
ゴポゴポと水の音が聞こえだすと、キャンパスの絵が燃え始めます。
燃えているにも関わらず、聞こえるのは水の音。
なんともアンバランスですね。
火と水は正反対の存在です。反転しているようにも思えます。
ユンギと思われる絵が燃えるのは、彼の火自殺を連想させ、不幸の暗示のようにも感じます。
そして絵に血飛沫のような赤が迸り、ドロドロとインクが溶けていきます。
このシーンは先ほどの、絵が濡れて変わってしまい、乾いた頃にはデミアンになっていたという小説のシーンとも似ているように感じます。
それを見たジョングクは苦しそうに首を振り、涙を浮かべます。
ユンギの絵に血が飛び散り、まるで彼が死んでしまうかのようです。
しかし、何かおかしいと思いませんか?
実際には絵は燃えていて、キャンパスは雨に濡れているわけでもありません。
そして濡れているにも関わらず、聞こえるのはパチパチとした燃える音。
先ほどのシーンと反転しています。
それを象徴する様にシーンの切り替えがあります。
ここで考えられるのは、キャンパスが濡れている世界はジョングクの中のもう一つの世界だということ。
彼の心の中というべきでしょうか。
ジョングクが「ヒョン」と泣き叫ぶと、現実の彼の頭上を鳥が羽ばたいていきます。
ヒョンというのは言わずもがな、ユンギのことだと思えます。
鳥
実はこの「鳥が羽ばたくシーン」というのは花様年華シリーズにもありました。
床に映る鳥の影は、これらのシーンを思い出します。
そして直後に映る、真っ赤な空と森、一匹の鳥。
鳥たちはどこへ向かって飛んでいるのでしょうか。
これは「デミアン」ではとても大きな意味を持っています。
ユンギであり、自分自身でもあるキャンパスの絵が、じっと自分を見据えた後、ジョングクは床に落とした絵を拾います。
その絵はさっきと同じ男性(ユンギ)ではなく、一匹の鳥の姿をしていました。
ジョングクはその絵を封筒に入れています。
そしてジョングクの影が、鷹の翼を持つ。
ハイタカというのは鷹の種類ですが「デミアン」においては重要な意味を持ちます。
シンクレールはベアトリーチェの絵が濡れてしまった後、デミアンと初めて話した時に彼が家門の紋章について話していたことを思い出し、それを絵に描き始めます。
紋章はハイタカの絵柄でしたが、シンクレールは特に気にしたことなどありませんでした。
しかしデミアンは言っていました。
「これは興味がある。こういうものに注意しなければならない」と。
できあがったのは、するどい精悍なハイタカの頭をした猛鳥だった。
それは半身を地球の中に入れ、その中からさながら、大きな卵から出ようとするかのように苦心して脱け出ようとしていた。
ジョングクが手に持っているハイタカの絵は、これを表しているように思えます。
翼を開き、卵(世界)から出ようとするハイタカ。
そしてシンクレールは、この絵をデミアンに送ろうとします。
デミアンに手紙を書くことは、たとえ送り先がわかっていても、できなかったろう。
しかし、そのころなんでも夢幻的な予感に促されてやっていた私は、同じ気持ちで、とどいてもとどかなくてもいいから、ハイタカの絵を彼に送ろうと決心した。
シンクレールはその時、デミアンの住所は知りませんでしたが、ジョングクのこのシーンのように、彼は絵を封筒に入れ、名前も書かず、デミアンの昔の宛名を書いて手紙を出しました。
それは、不思議なことにデミアンに届き、そしてまた不思議極まる方法で返事が届きました。
その返事こそ、Wingsシリーズで大事なテーマとなっているこの言葉です。
鳥はもがき苦しんで卵から抜け出そうとする
卵は世界である
生まれ出ようとするものはひとつの世界を壊さなければならない
そして鳥は神の元へ飛んで行く
その神の名はアプラクサスという
−デミアン第5章 鳥は卵の中から抜け出そうと戦う
一度整理して見ましょう。
初めにハイタカが出てきたのは、夢から目覚める瞬間。
ブレーキ音がし、鏡が割れた時です。
鏡が割られた音は、新たな道が開かれたことを意味します。
そして次に現れたのは、キャンパスの絵が燃えた後。
キャンパスの絵は、ユンギ、そして自分自身を指します。
そしてジョングク自身もまた、ハイタカとなる。
ここからは個人的な解釈になります。
「デミアン」では、シンクレールは歳を重ねるたび、いろいろな物や人物に心を寄せることで成長していきます。
それは師であったり、誘惑であったりしました。
一番初めはデミアン。デミアンと離れてからはお酒。恋をしたベアトリーチェ。師であったオルガン奏者ピストーリウス。そして愛したエヴァ夫人。
ジョングクにとって、一番最初に心を寄せた相手がユンギだったのではないでしょうか。
自分と似たユンギは、ジョングクを救った人物でもありました。
しかしそれを脱しなければいけない時が来ていた。
Wingsにおいて「諦める」ということも、誘惑に入るのではないかと個人的には思っています。
現状に諦めてしまうこと。立ち向かわないこと。
そのままではソクジンが何度タイムリープをしても、いつだってジョングクが事故に遭う未来は付き纏ってきます。
タイムリープは不幸を先延ばしにしているに過ぎません。
ユンギの絵が燃えるのは、精神的な面での別れを表しているように感じました。
ジョングクの中で、ユンギに縋る思いを脱した時、ジョングクは一つの「殻」を破ることができる。
そしてもしかすると、それはユンギにとってもそうかも知れません。
鏡が割れる音は、ジョングクが「殻」を割った音だとも考えられますね。
鳥が飛んでいくのは、アプラクサスという神の元です。
殻を割り鳥となったジョングクは、一歩神の元へと歩み始めたということでしょうか。
ジョングクのロゴ
Wingsでは最後にロゴが映りますね。
これはそれぞれの卵を表しているように思えます。
ジョングクの卵は翼が生えたような、雛が孵ったようなマークです。
今後これは大事となってきますので、覚えておきましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
Short Filmは他の動画と関連した所や、反転した演出がとても多いので、説明を割愛している点もいくつかあります。
それは後の考察で詳しく書いていきたいと思いますので、しばしお待ちください。
今回のBEGINの考察で言いたかったことは以下の点です。
- BEGINは誘惑から逃れ、殻を割ったジョングクが描かれている
- 誘惑となっていたのはユンギの存在、そして立ち向かわず諦めていたこと
- 絵が燃えている世界、そして絵が濡れている世界で反転している
- ジョングクは自身の殻を割り、ハイタカとなってアプラクサスへ飛ぶ
アプラクサスについては今後の記事で詳しく書きたいと思います。
次